TksMackyの投資徒然

穏やかに頭を体操させる、体を壊さないレベルの趣味のような投資が好き

全ては借り物!?

市場(Market)は、モノやサービスを、最も欲しがっている人に向けて最も効率よく生産・分配する仕組みでした。これまでのところは。

その分配の仕組みは、生産活動(労働)の対価(お給料)によるところ大でした。(生活保護、年金、その他セーフティネットのような例外はありますが)基本的には、みんなが分業して生産、対価として給与を受け取り、その給与で分配を受けてきました。

でも、生産性が上がるって、生産/労働が上がる、ってことです。同じ量を生産するのに必要な労働の量が下がるんです。行きつくところまで行くと、みんなへの分配機能を果たしていた労働が、ほとんど必要なくなってしまいます。AI等をきっかけに既に起き始めていることですね。

もちろん、新しい産業が起こるでしょう。新しい働き方のできる労働者への需要が増えます。産業革命、IT革命、いずれも古い働き方への需要を根こそぎにしつつ、新しい働き方への需要をそれ以上に作りました。でも、今のAI革命って、劇的な量の新しい労働需要を生むようには思えないのです。というのも、あまりにもレバレッジが効きすぎる、一人/一社/一プロジェクトの考えた仕組みが全てをひっくり返す世界だから。

徒然なるまま社畜として過ごしつつそんなことが心に映りゆく日々の中、「ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀」を読みました。資本と資産(財産権)、特定の地域に居住し働く権利(ビザ)等ほとんどの権利は、オークションにかけ、そのオークションの対価を国民に配れば、資本の最適な利用と、その利益の分配が成される、という主張です。

何かを所有する人は、その所有物を大事にし、必要なメンテナンスや投資を行う動機を持っているので、所有権は、モノが経済の中で有効活用されやすくする効果(著者はこれを「投資効率性」と呼ぶ)があります。

一方、所有者はそのモノを最大限有効活用しようという動機は必ずしも持っていないことが多く(大富豪の豪邸をイメージすればよいかと)、所有権制度があると、モノは、必ずしもそれを最大限有効活用できる人に配分(同じく「配分効率性」と呼ぶ)されません。

これを解決する手段として著者は、すべてのモノの所有者にとっての価格が公開され、常にオークションされればよいと提唱します。登記簿に、所有者だけでなくその所有者にが考える価格も登記するイメージです。

所有者は、その登記価格の一定%を納税します。一方、その登記価格を上回る価値を認める買い手が現れた場合、その買い手は登記価格を元の所有者に支払い、所有権は直ちにその買い手に移ります。所有者は、所有し続けたければ高い価格を登記せねばならない一方、高すぎる価格を登記すれば毎年の納税額が高くなってしまいます。従って、所有者には、高すぎる価格でも低すぎる価格でもなく、正直に自分の評価する価格を登記する誘因があります。

正直に自分の評価額を登記したときに、それを上回る価格を提示する人が出てくる確率(著者はこれを「回転率」と呼ぶ)と税率を同じものに設定すると、所有者にとっては自分の評価額を正直に登記するのが最適になり、かつ、最適な配分効率性が達成されます。一方、それより税率を低く設定すると、高い価格を登記する動機が生じて配分効率性が害される一方、投資効率性が高まります。詳細は本書第1章をお読みいただきたいですが、投資効率性と配分効率性のトレードオフの最適化には、回転率より低い水準に税率を設定するのがよいことになります。この税金は、いわばそのモノを社会から借りるレンタル料です。著者は(おそらくシャレて)このレンタル料をCOST (Common Ownership Self-assessed Tax)と呼んでいます。COSTはモノを占有するコスト、或いは他者をそのモノの利用から排除するコストといえます。

所有に要するコストが増えると、そのモノの値段は下がります(ファイナンス的に言えば、モノの価値は、その者が生み出すキャッシュフローを現在価値に割引いたものなので)。著者の試算によれば、サンフランシスコの土地は1/3から2/3下がるそうです。香港の不動産などがいい例ですが、人為的に供給が絞られているような環境では大きなメリットがあります。再配分と格差是正にも大きな効果があります。著者は、7%のCOST導入により歳入が20%増えると試算しています。これは、既存の税金をすべてなくし、かつ、米国民一人当たり約5,300ドルを社会的配当として還付できる額だそうです。これを負担するのは、資産を持っている人ということになります。

今は、あらゆるものにタグをつけ、その価格を誰もがいつでも見られる(かつ、入札できる)ようにするだけの技術基盤があります。従って、夢物語とは一概に言えません。格差問題がこれだけ注目されている中、「所有」から「社会からのレンタル」に政治や制度のトレンドが動いていくかもしれないですね。

 尚、本書は経済学者と法学者の共著です。上記のオークション以外にもう一つ、投票制度についても考察していますが、それはまた別の機会に。投票制度(政治の問題)にも資産オークション(経済の問題)にも共通しているのは、個々人の選考を如何に市場の仕組みを通じて資源配分や政策に反映していけばよいのか、という問題意識です。